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望月美佐緒?ルネサンス次期社長

東証プライム上場企業で0.8%の女性社長に

スポーツ経験が
ビジネスで活きる

株式会社ルネサンス
代表取締役社長

望月美佐緒さんMISAO MOCHIDUKI

体育学部 卒業

東証プライム上場企業で0?8%の女性社長に

 大阪体育大学出身の望月美佐緒氏が2025年4月、フィットネス産業大手のルネサンス(本社東京都墨田区)の代表取締役社長に就任しました。同社は4月に子会社のスポーツオアシスに対して21回目となるM&Aを実施するなど積極的な経営を進めています。望月さんはハンドボール部女子出身。「スポーツでの経験はビジネスに非常に活きている」と語ります。トレーナーとして業界に入り、東証プライム上場企業では0?8%しかいない女性社長に上り詰めました。望月さんに聞きました。

長期ビジョンに「健康ソリューションカンパニー」

――新社長として注力する分野は。

 私たちは「健康ソリューションカンパニー」になることを長期ビジョンに掲げています。コアは運動のノウハウやスキルですが、今はスポーツクラブに来られる方だけではなく、様々なチャネル、フィールドに事業を多角化しています。具体的には、企業?健康保険組合に向けた健康経営の領域や、自治体と連携した地域の健康づくり。例えば大阪府堺市?大浜体育館の運営などのPFI事業や介護予防教室、学校水泳などの受託事業です。さらに「元氣ジム」というブランドで展開しているリハビリ特化型のデイサービス事業や、4月に合併するスポーツオアシスで伸びているホームフィットネス事業など、様々な分野に事業を拡大したいと考えています。

――4月のスポーツオアシスのM&Aにより、業界で、総合型スポーツクラブを主流にしている分野としては売上ではおそらく首位に立つ。意欲的に業務拡大に取り組む狙いは。

 スポーツオアシスはルネサンスの店舗がない地域に展開しています。M&Aにより、これまで店舗がなかった大阪の真ん中などで、オアシスの店舗を活用して企業や健康保険組合の事業を拡大できますし、オアシスが得意なホームフィットネスの分野をルネサンスの他の事業分野に拡大することが可能です。

大体大進学が人生の転機

――大阪体育大学時代、ハンドボール部で活躍された。なぜ大体大に進んだのか。

 インターハイ予選で負けたことが契機になり、高校卒業後もハンドボールを続けようと進路を変更しました。ただ4年は長すぎるので、短大に進もうとも考えていたのですが、高校ハンドボール部の監督で五輪選手も育てた父から、「大学にハンドボールをしに行くだけなら意味がない。ハンドボールを通して人生を学ぶのだったら4年間が必要だ」と言われて、関西では強豪だった大体大に進みました。
 大学の練習はとても厳しく、4年の時全日本インカレで準優勝しましたが、大体大に進んだことは人生でも一番の転機でした。人生で、自分の進路を自分で決めるという経験はとても重要です。道を選んだ以上は責任があり、結果を出すために努力しました。

――卒業後はトレーナーとして、フィットネス業界に進んだ。

 4年生の12月まで試合があり、就職活動ができませんでした。ハンドボールは学生で終わりにするつもりで、好きだった運動を卒業後も楽しくできる方法はないかと考えていて、ご縁もあり、永新不動産の「Doスポーツプラザ」に入社しました。

――3年後、ルネサンスに転職した。

 体を壊して退職し、その後専門学校の講師をしていた頃、ご縁もあり、ホテルニューオータニ大阪のジムを運営していたルネサンスに入社しました。

――トレーナーを務めながら本部の経営にも関わった。

 その後関東に転勤となりました。会社が6期連続で2けた成長し、ものすごい勢いで伸びた時代です。私たちは今回のオアシスで21回目のM&Aとなります。当時は、キッコーマン、日本たばこ(JT)、三菱地所、住友商事さんなど名だたる企業が子会社としてフィットネスクラブを持っていましたが、ご縁もありM&Aさせていただきました。会社が急成長し、各店舗で個別にやっていた事業を標準化しないとチームオペレーションができません。現場を知る私たちがスーパーバイザーとして現場でトレーナーをしながら標準化の役割を担いました。

――なぜ、トレーナーから社長に上り詰めることができたのか。

 本当に運が大きかった。運とは、会社が伸びる時に働いてきたことと、そこで得た経験値です。また、亡くなった前社長が一から始めたヘルスケアの領域に10年前から関わりました。スポーツクラブをコアにしながら横の領域に健康ソリューションカンパニーとして広げていく役割を経験したことも大きかったと思います。

「ガラスの天井」を感じたことはない

――東証プライムの上場企業のうち女性社長は0?8%。「ガラスの天井」を感じたことは。

 上、つまり役職として上位のポジションをめざしたことはありません。「部長になれ」と言われた時、「なんでこんな目に合うのか」と言って当時の社長を怒らせました(笑)。ただ、「君が考えていることをやりたいのだったら、それなりのポジションで発言権があるポストに行かないとだめだ」と。また、取締役からは「君が同じ場所にいたら、君が育ててきた人の道をふさぐ」と言われたことも人生を左右しました。女性であることをマイナスに感じたことはありません。

――大体大など体育大の学生はコミュニケーション能力、リーダーシップなど、社会での業務遂行、組織運営に必要な非認知能力が高いと、しばしば企業の人事担当者から指摘される。

 大体大出身の社員は多く、一時期はうちの役員比率で大体大が一番多かった時期もありました。大体大出身で、コミュニケーション能力が低い人はあまりいませんね。サービス業として不可欠の資質ですが、本当にそう思います。

スポーツで学んだことはビジネスと類似

――学生時代のスポーツ経験はビジネスの現場で活きるか。

 ハンドボールを続けるために大体大に進んだことが、人生で私の一番の転機です。何かにチャレンジすることはスポーツでは当たり前で、挫折から立ち直る力をスポーツで鍛えることはありますが、この力を社会に進んでから醸成することは意外に難しい。スポーツでの経験及びアスリートとして学んだことはビジネスと類似しています。例えば努力しないと勝てない(成果が出ない)。どんなに努力しても相手の方が強かったら負けます。一人で完結するビジネスはほとんどなく、チームの能力を引き出せるかどうかはすごく大きい。ハンドボールはコート7人、ベンチ7人ですが、その人たちだけでは勝てません。大体大ハンドボール部女子のインカレ11連覇がすごいのは、4年間試合に出なかった学生たちにも満足度や達成感があると感じることです。全員がそれぞれの役割を持ってやり切るチームは、すごく強いと思います。私は2年生でレギュラーになりましたが、けがをして、初めてチームを俯瞰してみることができました。相手チームの戦略をビデオで徹底的に分析する。練習で「ボールをいかに早く出すか」を追求する。そういう人たちの総合力でチームは強くなります。それはビジネスと同じです。

大学の4年間「出し惜しみ」をしないことが重要

――大体大は2025年、開学60周年を迎えます。大体大生に向けて、先輩からメッセージを。

 スポーツは、人との関わり方、努力することの大切さ、基礎の大切さなど社会を生きる上での大切なことがいっぱい学べます。しかも大学生の4年間は、本人は気づかないかもしれませんが、50代、60代から見れば気力も体力もあります。だから、どうぞ、出し惜しみをしないでください。やり切ることでしか見えてこないものがある。中途半端で止めるのではなく、その時にしかできないことをとことんやってみる。その経験はものすごく重要なことだと思います。

(2025年3月 取材)

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