パリパラリンピックで日本選手団の副団長を務めた大阪体育大学大学院博士前期課程2年の中澤吉裕さん(54)が10月28日(月)、本学を訪れ、野田賢治理事長、原田宗彦学長にパリ大会での活動などについて、パリオリンピックにウエルフェアオフィサーとして帯同した土屋裕睦教授とともに報告しました。
中澤さんは日本パラリンピック委員会強化本部長兼ハイパフォーマンスマネージャー。2016年リオデジャネイロ大会から21年東京大会まで車いすテニス日本代表監督を務め、本学?土屋教授から代表チームの心理面でサポートを受けたことが縁で2022年4月、大学院に入学。長期履修制度とオンライン講義を利用し、土屋研究室に所属してチームビルディングを研究しています。
中澤さんは野田理事長、原田学長に、各競技団体ごとの強化計画を統括するハイパフォーマンスマネジャーとして、2028年ロサンゼルス大会に向けて活動していきたい意向や、大学院での学びなどについて報告しました。
中澤さんに今後の強化策や日本のパラスポーツの課題などについて聞きました。
――パリ大会で日本の金メダルは東京大会から1増の14個。日本選手団として総括は
金メダルが増えたほか、メダルを獲得できた競技数も増えた。これらは強化が進んだ成果だ。また、未来のスター選手を発掘する「J-STARプロジェクト」を推進しているが、卒業生のゴールボール選手がメダルを獲得し、発掘?育成のシステムが軌道に乗れたと思う。しかし、メダルの総数は最多を狙ったが、東京から10個減り41個だった。この点は厳しく受け止め、本部としてこれからの方針を見直していきたい。
――副団長としてどんな活動を
選手の応援はもちろんだが、裏でコツコツと取り組んだのは選手団全体の環境作り。選手村内にリラクゼーションルームを作り、選手やスタッフが自分の家にいる気持ちになれるよう「ホーム?イン?パリス」をプロデュースし、アンケートでは選手から「良かった」と一定の評価をいただいた。これはオリンピック日本選手団副団長の谷本歩実さんらと連携して実現した。オリンピックとパラリンピックの選手団が連携したのは初めての取り組みで、大きな成果だと思う。
――ハイパフォーマンスマネージャーとは
各競技団体に、強化に向けたマネジメントを担うハイパフォーマンスディレクターがいて、それを束ねる仕事だ。すべての競技団体が強化戦略プランを策定しているが、プランの中身やきちんと運用できているかどうか、どうブラッシュアップすればいいのかなどをコンサルティングする。
2017~19年にかけて、オリパラの各競技団体から私を含めて約40人が2年かけて国の研修を受け、オーストラリアに約1週間行って学んだ。そのころ、海外ではハイパフォーマンスマネージャー、ディレクターが活躍していた。海外のマネージャーはスポーツ経験がなく、経営能力があり、スケジューリングをしっかり組め、評価指標を作れる人が競技団体のトップにいて、強化は強化に特化した人が担っていた。日本は強化を担当する人に計画も立てさせ、世界に追いついていない部分もあるが、各団体の強化プランの策定?運用をサポートしていきたい。
――大学院に進んだ理由は
単純に学びたかった。土屋先生に2016年からナショナルチームをサポートしていただいた縁で、大阪体育大学の大学院に進んだ。オンライン講義がなかったら、家の近くの大学院を探すしかなく、選択の幅はとても狭まっていたと思う。大学院でチームビールディングを学んでいるが、組織や競技団体はどうしたらうまく動いていくか、人がどう関わると組織はどう動いていくのかなどを、心理学を通じて学ぶことができ、今の自分の仕事にすごく役立っていると感じている。
――パラスポーツのトップ選手をより強化するためには
パラスポーツのプロ化、プロスポーツとして確立していくことが重要ではないか。ただ、プロ化することで紐づいてくるものは多い。競技力の高さ、選手の人間性はもちろん、コーチの育成、協会のスタッフ育成なども大きな課題になる。
――パラスポーツ全体の課題は
トップ選手は東京大会後に受け入れが進み、その強化の成果でメダルが多数取れたが、もっと重い障害を持った方がスポーツで遊べるような場所を地域で増やしていきたい。子どもが公園で遊ぶのも難しくなった時代で、障害を持った子どもが遊べる場所は限られるが、例えば大学などが施設を開放して障害がある子が遊べる日を作り、学生がいっしょに時間を過ごすことによって、これからの社会に新しいメッセージを出していけるのではないか。大阪体育大学では昨年、シッティングバレーボールの日本代表がバレーボール部女子と2回合同練習をした。受け入れていただく大学はとても少ないが、大学生が障害のある人とともに活動することは、多様性や協調性の大切さを知るうえで一番早道だと思う。
また、「リモート」は大きな手段だ。重い障害がある子どもが家から出られなくても学校の授業を受けられ、リモートを通じて外部の人と接していく中で、心を開いたり、外に行ってみようかと思うなど活躍する場所が増えていくのではと考えている。
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